近年、乳酸菌を摂取することによる腸の免疫改善からの肌に対するアンチエイジング効果だけでなく、皮膚に塗布したときの効果についても調べられています。そこで今回は乳酸菌(Lactobacillus)を化粧品成分として肌に塗布したときの皮膚へのアンチエイジング効果について医学論文を参照しながら考察してみたいと思います。
乳酸菌自体を肌に塗ることによるアンチエイジング効果
『プロバイオティクス』という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。プロバイオティクスとは乳酸菌(生菌/死菌)など細菌自体を肌や腸内、口腔内の細菌叢に与え人間に有益な効果を引き出すことで、ヨーグルトはその典型的なプロバイオティクスです。意外かもしれませんがプロバイオティクスでは生きた菌である必要はなく、細菌は生きていても死んでいても独自の有益な効果を発揮するので生きた乳酸菌でも死んだ乳酸菌でも使えます。これは乳酸菌の細胞膜がリポテイコ酸と呼ばれる成分でできているためで、このリポテイコ酸がさまざまな免疫調整作用をもっているからです。
黄色ブドウ球菌の抑制効果
口腔内でもそうですが細菌が定着するにはまず皮膚や粘膜に接着するための『足場』がないと住み着けません。皮膚の常在菌で悪玉菌である黄色ブドウ球菌が皮膚にくっつくには特定のタンパクを足掛かりにしています。そのタンパク質を『インテグリン』と呼んでいますがこのインテグリンを善玉菌の乳酸菌で先に取ってしまえば黄色ブドウ球菌の増殖を抑制できることになります。乳酸菌のロイテリ菌は黄色ブドウ球菌が角質細胞のインテグリンに接着できないようインテグリンに競合的に接着する[1]効果があるため、皮膚の角化細胞のケラチンへの黄色ブドウ球菌の『プラーク』形成を抑制する[2]効果があります。プラークとは簡単に言うと『細菌の巣』のことです。
現在では健康と美容に関心がある人の間で知られていますが、皮膚に住んでいる細菌は汚いものではなくて皮膚の免疫に影響を与えて皮膚の健康を制御しています。悪玉菌の黄色ブドウ球菌は上皮細胞に対して細胞死を起こすので繁殖しすぎるとバリア機能が乱れ乾燥肌など肌荒れの原因になりますし、善玉菌の表皮ブドウ球菌は皮膚と連絡しあって皮膚の健康を保っているのです。
表皮ブドウ球菌の増殖効果
黄色ブドウ球菌とは異なり表皮ブドウ球菌は常在菌の中でも善玉菌です。表皮ブドウ球菌と黄色ブドウ球菌は互いに勢力を拡大しようと戦っている関係にあるので黄色ブドウ球菌を減らすには表皮ブドウ球菌を増やしてあげることが肌のエイジングケアにつながります。乳酸菌のブレビス菌は角質細胞の炎症を抑制し表皮ブドウ球菌を増やす作用がある[3]ため乳酸菌プレビスは皮膚のアンチエイジングに有望な乳酸菌だといえます。
アトピー症状改善効果
アトピーの肌は黄色ブドウ球菌と皮膚バリア機能の低下があります。乳酸菌のラムノサス菌はアトピー患者の皮膚を減らし、炎症を緩和し敏感肌症状を軽減する作用があります[4]。ハーブで発酵させた乳酸菌のプランタルム菌上澄み発酵液は皮膚の炎症を抑制し血漿IgE抗体量を低下させるためアトピーの治療へ応用可能性があります[5]。
ニキビ改善効果
ヒノキで発酵させた乳酸菌発酵液はティートゥリーオイルよりもニキビを改善した[6]との報告があります。ニキビの原因は皮脂分泌過多、アクネ菌の増殖、酸化脂質による炎症ですから抗炎症作用がある乳酸菌はニキビにも有効です。
歯周病抑制効果
口腔内においても乳酸菌ブレビスの塗布は歯周病を抑制した[7]との報告もあるため歯周病対策にも乳酸菌は有効である可能性があります。
乳酸菌が産生する代謝物のアンチエイジング効果
先ほどから出ていますが乳酸菌自体を利用するだけでなく乳酸菌が大豆やダイコンなどを食べて生産する成分(乳酸菌発酵エキス)についても皮膚に対する効果が調べられてきています。そのなかでも私が有用だなと現在感じるのは天然の抗生物質である『バクテリオシン』です。乳酸菌が生産するバクテリオシンの一つ『ラクティシンQ』は細菌の細胞膜に穴を開ける[8]ことが知られており、ラクティシンQはレセプターを必要としない[8]ため広範な抗菌スペクトルを持っています。これらバクテリオシンは低濃度でも抗菌性があり瞬時に細菌の細胞膜に穴を空けてATPなど細胞内容物を奪って殺菌するため、バクテリオシンはマクロライドやパラベンなどの抗生物質や抗菌剤、合成防腐剤とは異なり耐性菌を生じにくいと考えられています。悪玉菌の黄色ブドウ球菌がこれらの合成防腐剤で変異してしまうと皮膚のバリア機能が低下し、肌荒れが起きやすくなるためエイジングケアを考えた化粧品防腐剤としてはパラベンなどではなくバクテリオシンで防腐するべきだと考えます。
【参考文献】