日焼け止めに代表されるナノ化技術を応用した化粧品や医薬品、食品にも応用されて久しいですが、医薬品はともかく毎日皮膚に塗布する化粧品や毎日食べる食品にナノ微粒子が含まれていることで、肌のエイジング(老化)を加速する危険はないのか興味がわきましたので医学論文で調べてみました。
目次
日焼け止めクリームにはナノ化微粒子が含まれている
日常使用し皮膚に長時間とどまっているような化粧品はナノ化された成分の影響を強く受けるため、まずは化粧品でナノ化成分がどのような製品に使われているのか見てみましょう。まず日焼け止めクリームや乳液には酸化亜鉛(ZnO)や二酸化チタン(TiO2)が紫外線散乱剤として昔から使われてきました。それらの酸化遷移金属は小さくナノサイズに近づくほど皮膚に塗布した際の白浮きがなくなり透明感が出るため、『紫外線吸収剤不使用で白浮きしない日焼け止めクリーム』と謳っている日焼け止め化粧品はナノ化されている可能性が高いと推測されます。
ナノ化された化粧品成分は皮膚の免疫機構に影響を与える
二酸化ケイ素(シリカ)(SiO2)のナノ粒子は沈降防止剤として多くの化粧品に使用されていますし、 銀(Ag)ナノ粒子は、衣料品、抗菌スプレー、洗剤、靴下、靴などの消費者製品に広く抗菌用途に使用されているため、私たちの日常生活を通じて銀(Ag)ナノ粒子にもさらされています。これらのナノ化化粧品は皮膚に塗布されるものですので花粉や食品など他のアレルゲンとの相互作用もあるのではないかと推測されます[1]。なぜなら、ランゲルハンス細胞や皮膚常在菌と角質の免疫機構でも知られているように皮膚は異物に対する免疫をつかさどる組織だからです。ランゲルハンス細胞はその分岐した枝を顆粒層にあるタイトジャンクションを超えて皮膚表面に近い部位を異物がないか探索していることもわかっています[5]。腸にも腸内細菌がいて腸管壁の細胞があり同様に免疫機能を持っており異物感知システムを備えています。腸と皮膚、あるいは脳は互いに連絡しあっていることが知られているため皮膚に触れた食材が原因で食物アレルギーを発症することも知られています(茶のしずく事件)。この茶のしずくで小麦アレルギーになる仕組みについて記事を書いていますので興味がある方は読んでみてください。
つまりナノ粒子は皮膚の免疫機能に影響を与えることが示唆されていることになりますので、日焼け止めの使用は亜鉛などに金属アレルギーがある方はもちろんですが茶のしずくのように金属が皮膚から浸透するため金属アレルギーの原因となることが容易に考えられます。しかももし日焼け止めがクリームや乳液といったエマルジョンなら界面活性剤の作用でさらに皮膚内に浸透することになるのです。
ナノ化微粒子は皮膚のどこまで浸透するのか?
さて、なぜメーカーはこのようなナノ化微粒子を使うのでしょうか?一つはナノ化すると単位重量当たりの表面積が増えるため特徴のある物性が得られるからです。もう一つはその小ささゆえに皮膚や粘膜からの組織浸透率が向上するためです[1]。下にナノ粒子がどのくらいまで皮膚から浸透するかの模式図を医学論文から引用しました[1]。

ナノ粒子の皮膚からの浸透度 Yoshioka Y et al. [1]
これをみるとナノサイズの微粒子は角質ならびに上皮に浸透し、皮膚バリア機能が低下している場合には基底膜を超えて真皮層まで浸透する可能性があることを示しています。日常生活で皮膚バリア機能が壊れてしまう最大の要因はクレンジング剤やシャンプーに含まれている合成界面活性剤の多用でしょうね。
あるいはパラベンやフェノキシエタノールなど合成防腐剤の多用による薬剤耐性黄色ブドウ球菌の発生による毒性の強化や紫外線を浴びてタイトジャンクションが壊れるなどが考えられます。
あとはアトピーやニキビは皮膚バリアが壊れていることが明らかですのでナノ粒子は浸透しやすいと考えられます。
ナノ化微粒子はどのように排泄されるのか?
浸透したナノ粒子は上皮のランゲルハンス細胞や真皮の樹状細胞により捕獲されリンパ管に連れていかれ排泄されます[2]。ただし、このような樹状細胞による輸送はナノ粒子の大きさによって決まり大きめのナノ粒子(500〜2000nm)なら樹状細胞がはこんでくれますが小さめのナノ粒子(20〜200nm)は自由にリンパから排泄されます[2]。
ナノ化微粒子は胎児にも影響を与え低体重児のリスクがある
そのためあまりにも小さいナノ粒子は体内で排泄のコントロールがされないことが考えられます。実際、直径70nmおよび35nmのシリカおよび二酸化チタンナノ粒子が、妊娠マウスに静脈内注射されたとき胎盤、胎児の肝臓および胎児の脳に見出されたとする研究報告もあります[3]。 これらのナノ粒子で処置したマウスは、未処置対照よりも小さい子宮および小さい胎児を有していたとのことです。あまりに小さいナノ粒子は胎盤を通過し、低体重児のリスクが示唆されましたので妊娠中の方は特にナノ化された微粒子を含む化粧品は皮膚に塗らないほうが良いのではないでしょうか。
日焼け止めクリームの使用は抗加齢医学の観点からは改善が必要
日焼け止めなどの化粧品には二酸化チタンや酸化亜鉛が使われていると最初に述べましたが排気ガスから出る酸化鉄も含めてこれらの遷移金属の酸化物は紫外線に照射されなくとも皮膚に長期間付着しているほど、量が多いほど大気中の酸素の存在で活性酸素を発生させます[4]。少し前ですと紫外線散乱剤(二酸化チタン、酸化亜鉛)で紫外線から皮膚を守ろうと言えましたがアンチエイジング(抗老化)の専門医としてはあまり日焼け止めクリームや乳液を使うようには言いにくくなりました。しかもクリームや乳液は水と油が混ざったエマルジョン(乳化化粧品)ですので皮膚バリア能を低下させ、よりナノ粒子が皮膚から浸透していくことになります。かといって紫外線吸収剤は刺激が強く皮膚に炎症と活性酸素を発生させる可能性が高いため市販の商品はこれらの紫外線散乱剤と紫外線吸収剤を混合して日焼け止め化粧品にしている場合が多いと思います。
さらに酸化亜鉛など金属酸化物は紫外線によって金属イオンと活性酸素(ROS)に解離する[6]ため、日焼け止めを塗っていると紫外線を浴びただけで酸素がなくても活性酸素が生じるということになります。最初に解説したようにもし日焼け止めに含まれる二酸化チタンや酸化亜鉛がナノ化されていた場合には多かれ少なかれ皮膚内に入り込んでいくため外出時に紫外線を浴びると活性酸素による生きた細胞にDNAダメージが起こる[7]ことになります。
ですのでエイジングケアの観点から理想的な紫外線対策は、日焼け止めクリームや乳液を使用するよりも抗酸化物質や皮膚内で紫外線吸収する成分を塗布したり、あるいは食事やサプリなどで体内に抗酸化物質を補給することで紫外線対策する、そしてそもそも紫外線を浴びない工夫、たとえば日傘やフェイスカバー、帽子をかぶるなどの方が良いのではないかと考えています。もし紫外線が強烈で日焼け止め剤を塗るなら最初にビタミンC誘導体配合の化粧水や美容液などを塗布しておくとナノ粒子が皮膚に入りにくくなります。ビタミンC誘導体の紫外線対策への応用に関する記事も読んでみてください。
【参考文献】